21BY July.2009~June.2010
"Wheel of Fortune"

2009年の11月よりはじまった平成21酒造年度の造りは、前シーズンに引き続き、生産量を格段に落としての実験酒だらけの酒造りであった。シーズンの終わりに2本の普通酒をたてたのみで、ほかは全てが「特定名称酒」で埋め尽くされている。また特筆すべき変化は、「6号酵母系」の酵母しか使用しないという制約を課したシーズンだということであろう。前シーズンの平成20酒造年度よりもさらに多様な作品群を醸造しており、「新政」史上において最もクリエイティビティに溢れた年の一つであったと言える。しかしながら、醸造はしたもののリリースできない作品も続出してしまった。実際、当年度は「やまユ」シリーズも拡充し「酒こまち」「美郷錦」「美山錦」「亀の尾」といった酒米でもトライしていたのだが、実際にリリースしたのは「雄町」「改良信交」のみであった。「翠竜」第二世代や「全麹」「全麹山廃」などもお蔵入り。通常の山廃酒母自体にも不具合が頻発したシーズンである。その意味では、もっとも苦しい醸造年度のひとつでもあった。

この平成21酒造年度は「普通酒」の製造こそほぼなかったものの、大量の在庫の為に前シーズンでは造る必要がなかった本醸造などの定番酒の製造にも追われることとなった。このため、あらゆる酒質にめまぐるしく対応する必要が生まれていた。キャリアのある造り手はいたものの、チームとしては急造の頼りない現場である。様々な造り分けをするための基本的技術は決定的に不足していた。最後に無視できない要因として、あまりに個性的な造り手が揃っていたため統制が生まれにくかったことも、このシーズンの難易度が高まった理由であろう。爆発力は継続していたが、疲弊が徐々に見え始めてきていた。

とはいえ「やまユ」ラインナップに次代のスター米「改良信交」があらわれ、また「翠竜」の失敗から「亜麻猫」が誕生している。苦難の中にありながらも、着実に蔵の方向性は定まりつつあるシーズンであったと言えるだろう。

このように製造現場はなんとかギリギリ機能していたが、蔵の経営は相変わらずの危険水域にあり、さまざまな経緯で放置されていた案件を力づくで解決をしなくてはならなくなっていた。その一つが「新屋瓶詰工場の閉鎖」である。新政酒造から車で15分ほどのところには、酒造設備を備えた「新屋瓶詰工場」が存在した。これを解散させ「新政酒造株式会社」に完全に吸収したのがこのシーズンであった。

かつて秋田市の新屋地区に「新政 新屋瓶詰工場」というものがあった。「新政」の名を冠してはいるものの、その運営母体は「秋田中央銘醸株式会社」という別会社であった。

100年ほど前の話になるが、もともとこの地にあったのは「勝平(かつひら)」という酒蔵であった。しかしながら同社は焼酎事業に乗り出したところ、失敗して倒産寸前まで追い込まれてしまう。このとき救済したのが、「新政」の五代目当主であった。「勝平」の経営者が「新政」の五代目の妻・佐藤ヤエ(旧姓・土井)の親族であったためである。こうして「勝平」は「新政」の名の下に運営を再建することになった。

戦後は加速度的に酒の需要が伸び、「新屋工場」で生産される酒はもっぱら首都圏に販売されることになった。しかしオイルショックを境に清酒のニーズ、ひいては生産量はどんどん下降してゆくことになる。「新屋工場」もご多分に漏れず、ついには2000年頃にはコストの問題から酒の製造を中止せざるを得なくなってしまっていた。

「新屋工場」が中途半端な形で瓶詰と販売だけの運営を続けていた理由はいろいろとある。長らく五代目からの親族である土井家が運営していたこともあり、本社とは社風が違っていた。また慣習的に県外出荷について影響力を持っており、特に地酒卸「日本名門酒会」との関係が非常に密接であった。また「特措法」という法律のため中小の酒蔵には補助金が出ることも判断を躊躇させる一因であった。簡単に言うと、本社との合併はなにかと大変なので先延ばしにされていたのだった。

八代目蔵元が帰郷した際の「新屋工場」は、まだ酒造りをしていた時代の面影が残る、寂しい和風大伽藍という印象であった。広大な敷地の片隅でこじんまりと瓶詰め作業が行われていた。首都圏向けの酒がタンクローリーで運ばれて詰められているのだ。こうした二度手間は、酒質を非常に貶めてしまうことは誰の目にも判然としていた。幸い、長らく経営を取り仕切っていた土井家は退いて久しく、合併の機は熟してはいた。現在、二社が統合することには素晴らしいメリットがある。それは本社と中央銘醸の人材と業績を結集できるということである。

首都圏向けの「特定名称酒」の販売を主としていた「新屋工場」は酒の製造を中止してからも赤字を出していなかった。また豊富とは言えないながらキャッシュも蓄えていた。また何より社員が優秀であった。土井家が引退した後、新屋工場を受け継いだ高橋享氏はあえて経営者を名乗らず経営を行っていた。彼いわく「そもそもは佐藤家から預かったものだから」、余計な経費をかけずギリギリに切り詰めた運営を心がけていたのだ。また県外営業を一手に引き受ける照井実氏も有能な人材であった。照井氏は秋田県南部・山内村の出身であり、もともとは酒造りをするために入社したのだが、六代目佐藤卯兵衛の命で営業に転じた過去を持っていた。

こうした人材はぜひとも欲しい。それに単純に酒造りのための労働力も必要である。設備投資も必要だ。本社の経営成績はまだ安定せず、思いきった投資ができない状況であった。とはいえ今後の酒質向上にはどうしても必要な設備がある。特に冷蔵庫は必要だ。味わいの優れた酒、画期的な酒がどんどんと出来ているが、それらの品質を守る冷蔵庫がない。もしも合併で会社の財務内容を短期的にでも好転させられるなら、融資が受けられるはずだ———。

様々な折衝を経て、これが実現したのが2010年の2月。造りの真っ只中である。「秋田中央銘醸株式会社」は解散。酒造免許は税務署に返納した。そして本社は「新屋工場」の人員を吸収。すべての酒は本社から出荷されることになった。こうして経営状況、財務状況がやや好転することにより、「新政」は高品質清酒製造のための最低限の設備投資が可能となったのである。そして、これが本当に復活のための最後のチャンスであった。

製造特徴

このシーズンは「6号系」の酵母にのみ使用を限定した年である。「6号系」というのは、醸造協会が販売する通常の「きょうかい6号」だけでなく、当蔵が公的機関に依頼して選抜した株も含むという意味である。これら変異株は、親株とは異なる性質を持った「6号酵母」である。(しかしこれら変異株は、後年当蔵の技術が高まるとともに、より伝統的な方向へ移行したことから使われなくなっている)。

原料米においても大きな進展を見せた年であった。当年度は一転して他県産米の仕入れを制限している。理由は前年2008年に起きた「汚染米転売事件」である。カビの生えた事故米が食用として日本中で販売されたという、過去例を見ない大規模な犯罪であった。この事件は一部の酒蔵をも巻き込んで大事件へと発展。ついに倒産する蔵元も現れた。これはコストだけを追求した酒造りが陥る最悪の結末であった。当蔵は、そもそもはじめから、秋田県産米への大きな傾倒を見せていたのが、この事件を目の当たりにし酒造りの基本的な考え方を改めるに至った。

当蔵はこの年「3年以内に全量純米酒宣言」を行い、本格的に「純米蔵」へと移行するための戦略を実行に移し始めている。当時はまだ出荷量の大半が普通酒であったので、これには多大な努力を必要とした。将来的に普通酒を純米酒に切り替えるために、精米歩合が80~85%という低精米の「酒こまち」を原料として採用しはじめている。「酒こまち」のような酒造好適米はたいへん高価であるから、当時、同業者間では当蔵の先行きはひどく危ぶまれたものだったという。しかし当蔵としては低精米の純米で戦うには「酒こまち」を用いるより他ないと認識していた。いつかアルコール添加酒の廃止とひきかえに、低精米の純米酒を当蔵のラインナップのボトムに据えることにしたいというのが、当時の我々の願いであった。

原料米の傾向と、作品の特徴

当蔵の印象としては、当シーズンは85点という良好な原料米品質の年であった。ただし、全国的な酒造好適米の出来としては、登熟期の寒暖の差が激しく溶けすぎるという特徴があるようであった。

とはいえ、東北地方の硬質米や、60%程度の一般的な精米歩合の米にとってはそこまでの影響は見られなかったはずである。少なくても県内産の酒米の出来は良好なシーズンであった。

なお前述のように、当季から当蔵はトレーサビリティ確保の意味合いもあって「地方色」を重視し始め、他県産米の使用がぐんと減った。他県産米としては、コンテスト用に「山田錦」や「雄町」をごく少量仕入れる程度となった。

  • 21BY July.2009 - June.2010
    赤やまユ 第二世代
    • 価格:¥1,650-/720mℓ・¥3,300-/1800mℓ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:55%
    • 原料米:赤磐雄町
    • 原料米収穫地:岡山県
    • 日本酒度:+2 / 酸度:1.7 / アミノ酸度:0.8

    「雄町」を用いた「赤やまユ」は、この第二世代によって最期である。本作品は、より「雄町」らしい味わいを求めて試行錯誤することで、第一世代とはまた違った辛口の香味に仕上げることができた。とはいえ、結果的にうまく仕上がったものの、予想したレベルには若干届いていないことは否めなかった。21BYの「雄町」は20BYよりも上質のはずであったが、実際はそうとも言えない可能性があった。そもそも農家が違えば、比較は不可能なのである。農家を選択できないことはリスクであると感じた当蔵は、ここから秋田県内の契約栽培農家の増強へと舵を切ることを優先事項とした。その中で、我々は、「雄町」を秋田県内で栽培する可能性を模索し始める。「雄町」は南方系の米の代表格である。東北での栽培については、仕込みに用いることができるほどのスケールでは成功していなかったため、見通しは明るいとは言えなかったが、最終的には農家に頼み込んでつくってもらうことになった。種子の確保に2年以上かかったため、秋田県で収穫することになるのは、この4年後の平成25酒造年度のことであった。

    赤やまユ 第二世代
  • 21BY July.2009 - June.2010
    桃やまユ 第一世代
    • 価格:¥1,650-/720㎖・¥3,300-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:55%
    • 原料米:改良信交
    • 原料米収穫地:秋田市
    • 日本酒度:+2 / 酸度:1.6 / アミノ酸度:0.8

    秋田生まれの酒米を探求するうちに、ひとつの奇妙な名前の酒米に行きあたることになった。「改良信交」。長野生まれの「信交190号」を親として、丈の短いものを再選抜して(自然二次選抜)、昭和34年に誕生した品種である。ちなみに長野生まれの「美山錦」も同じく「信交190号」が親であるが、こちらは人為的二次選抜によって誕生している(放射線照射による突然変異株から、短稈かつ冷害に強い品種として生み出されたのだ)。「改良信交」と「美山錦」は、「信交190号」を単一の親とする兄弟の関係でありながらも、生まれ素性は相当異なっている。当蔵が「改良信交」に強い興味を抱き、「美山錦」より格上の米として扱うのはこのためである。

    当時、秋田県での栽培がちょうど途切れていた頃でもあり、その種子の入手とゼロからの栽培には苦労が伴った。しかし見事仕込み2本分の「改良信交」が収穫されることとなる。こうして生まれた本作品「桃やまユ」は、予想を覆し、当年度の最高傑作となって姿を現した。まさしく完熟の桃を彷彿とさせる味わいは、ほかのどの酒米とも異なる特性を持っており、むしろ未来的な趣さえあった。

    秋田生まれの最古の酒米で、最も現代的な味わいの酒ができたという事実は衝撃以外の何物でもなく、これを機に当蔵は使用する原料米において、そのすべてを秋田県産米とする決意を徐々に固めてゆくことになる。

    なお当シーズンは、赤、青以外に様々な「やまユ」を製造したが、多くがお蔵入りとなっている。「青やまユ(美山錦)」、「黒やまユ(亀の尾)」、「白やまユ(酒こまち)」、「緑やまユ(美郷錦)」が、「やまユ」としてはもう一歩の出来となり、他の酒と混和されたり、別名で発売されたり、倉庫で眠ることとなった。

    桃やまユ 第一世代
  • 21BY July.2009 - June.2010
    純米仕込貴醸酒
    陽乃鳥(ひのとり)第二世代
    • 価格:¥1,700-/720mℓ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:60%
    • 原料米:美山錦
    • 原料米収穫地:湯沢市
    • 日本酒度:-20 / 酸度:2.0 / アミノ酸度:1.1

    当蔵の実験酒の始まりである「陽乃鳥」であるが、実は第一世代は予想ほどは売れなかった。筆者は製造期間の終了後、「陽乃鳥」「翠竜」「やまユ」をクーラーボックスに詰め込んで、広大な秋田県じゅうの酒屋やデパート・複合施設内の酒販売所を行脚したものの、誰も味見すらしてくれず途方に暮れていた。

    その中で、秋田県内では5軒ほどの酒屋が、非常に強い興味を示してくれたことが救いであった。彼らはじゅうぶんな冷蔵設備を持ち、ほぼすべての酒を低温管理下に置いていた。酒に対する高度な知識があり、日本酒をメインに扱い、なんとビールはほぼ扱っていなかった。要望があった場合「ビールは近くのコンビニで買ってください」と客に告げるのだという。彼らは日本酒のセレクトショップであり、いわゆる地酒専門店というものであった。自分の酒はどこか変で売れないのだろうかと意気消沈していた私に彼らは言った。できるだけ買うので、また来シーズンも造るようにと。さらに、こうも付け加えた。価値のわかってくれる店にだけ卸すように、来年にでも県外の有力専門店にも持ってゆくように、と。なお彼らが初めに好んだのがこの「陽乃鳥」であった。

    こうして、当蔵の未来は、不死鳥をイメージする「陽乃鳥」によって繋がったのである。奮起した我々は、この第二世代「陽乃鳥」に取り掛かった。おかげで前シーズンの第一世代の唯一の欠点であった強いシンナー香は抑制され、バナナ様の香りが前面に出ることとなった。「南国を彷彿させる味わい」と評した地酒専門店がおり、そうした表現も妥当な味わいに仕上がっていた。

    こうして「陽乃鳥」は「やまユ」とともに、秋田県内外の地酒専門店にすこしずつ置かれ始めることになった。これ以来当蔵は、本作品のような個性的な味わいの酒に関しては特に、流通を意識して販売することを心がけるようになった。その醸造スタイルから、いわゆる地酒専門店のみで酒を販売する「限定流通」の方向へと徐々に進んでゆくことになるのだった。

    陽乃鳥 第二世代
  • 21BY July.2009 - June.2010
    白麹仕込特別純米酒
    亜麻猫(あまねこ)第一世代
    • 価格:¥1,400-/720mℓ・¥2,800-/1800mℓ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:60%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:秋田市
    • 日本酒度:+1 / 酸度:2.0 / アミノ酸度:0.7

    当蔵の象徴たる「亜麻猫」は危機的状況の中から突然生まれた作品である。当シーズン、我々は「翠竜」の醸造に失敗してしまった。「翠竜」は速醸酒母に異を唱えて開発したものである。酸味料(醸造用乳酸)を用いずに酒母を立て、そこから醸す酒である。可能な限り衛生的な環境で酒母を作ることで、汚染を防ぐという設計だったが、やはり現実はそんなに甘くはなかった。

    衛生環境が不十分だったのか、当シーズンの翠竜は野生酵母と乳酸菌に冒されてしまい、そのままでは販売が不可能な「多酸酒」となってしまったのである。やはり酒母造りにおいては、酸度が高いなど、なんらかの衛生的なバリアがなければ、もろみの発酵を完遂までに導くことができないのだった。

    とはいえ、このまま敗北したままではいられない。「翠竜」に代わるオーガニック醸造コンセプトを持つ酒を開発する必要に迫られた我々は、清酒醸造の教科書の一文に注目した。「酸味のある酒を造るには焼酎の麹を用いてもよい」という記述があったのだ。実際、焼酎麹で酸の高い酒を造る試みは、昭和中期より行われていた。また実際、同時期には秋田県の「天の戸」(浅舞酒造)が焼酎麹を用いて酸味のある酒の醸造に取り組んでいた。以上の先例から、どうやら酸を生成する麹菌が存在するらしく、それで酒の酸度を高めることができるようであった。であれば、酒母にそれを適用することで、醸造用乳酸のかわりとすることもできるだろう。実際、焼酎造りにおいては、白麹を用いることで安全にもろみを立てているのだ。

    我々は焼酎麹の作成に取り掛かった。これなら、外部から酸味料を調達する必要はない。微生物に生み出させた自然な酸で酒造りを完遂することができるはずである。

    そして麹が完成した。初めての白麹であった。酸っぱくはあるが、なんだか、みすぼらしい、できそこないのような麹であった。しかしこれを用いて酒母を立ててみると、必要最低限の酸は得られたようで、なんとか酵母は純粋に増えてくれた。酒母だけに入れた程度では酒に特徴が出ないだろうと、もろみにも白麹を入れて発酵させてみたが、なんら問題はなかった———こうして、通常の日本酒とは似ても似つかぬ、やたら酸っぱい奇妙奇天烈な酒がこの世に姿をあらわすことになる。当時の市場に毀誉褒貶を巻き起こすことになる「亜麻猫」がここに誕生したのであった。

    亜麻猫 第一世代
  • 21BY July.2009 - June.2010
    85%純米 第二世代
    • 価格:¥850-/720㎖・¥1,700-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:85%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:秋田市
    • 日本酒度:-2 / 酸度:1.8 / アミノ酸度:1.4

    2年目となる低精米シリーズ。”磨かなくても美味しいお酒”をキャッチフレーズに「エコ純米」としてスタートした作品である。当年度は格段に技術が向上しており、誰もそのような簡素な磨きの米で造ったとは思われないレベルの味わいを達成することができた。そもそもこの85%は、普通酒にかわりうる低価格の純米酒をリリースするために企画されたものである。なお本作品の成功によって、当蔵は実際に翌シーズン(22BY)より、精米歩合85%の「酒こまち」を原料に、少量のアルコール添加を行った、新しいスタイルの晩酌酒をリリースすることができた。この低精米の技術はますます高まり、その翌々年(23BY)には少額の値上げとともにこれを純米化する実験に成功。そして、その翌年(24BY)当蔵は念願の全量純米化を達成することになる。本作品「85%」および「90%」純米のテクニックは脱アル添へと向けてより研ぎ澄まされ、当蔵の商品構成を根底から変えてゆくことになる。

    85%純米 第二世代
  • 21BY July.2009 - June.2010
    90%純米 第一世代
    • 価格:¥850-/720㎖・¥1,700-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:90%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:秋田市
    • 日本酒度:-4 / 酸度:1.6 / アミノ酸度:1.4

    はじめてのトライとなる「90%純米」は、「85%純米」の成功から一歩踏み込んだ挑戦としてすすめられた企画である。実は、本作品は醸造前はどれだけひどい出来になるかと危ぶまれた酒であった。というのも米は外層部に近づくほど爆発的にミネラルやたんぱく質を多く含むようになる。「85%純米」とは5%の精米歩合の差しかないものの、見た目でも90%は明らかに異質であり、全体的に茶色がかった色調で、残念なことに胚芽が取りきれていないような米もある。蒸米を触ると手が脂でぬるぬるとするほどだ。磨きの良い米に慣れている造り手にとっては、醸造自体がぞっとする体験でしかない。しかし、そのぶん万全な態勢で挑んだおかげか、出来上がった酒は、香りの点でやや欠点がある(糠様の匂いが払拭できなかった)ものの、「85%純米」と比較してもさほど劣るわけではない出来となった。まさしく翌年以降の大きな飛躍を予感させる完成度で、市場にも相応の驚きをもって迎えられた。本作品は、この後しばらくの間、当蔵の看板的な存在となる「低精米シリーズ」の本格的な幕開けを告げる記念碑的な作品であったといえる。

    90%純米 第一世代
  • 21BY July.2009 - June.2010
    純米吟醸 グリーンラベル
    • 価格:¥1,400-/720㎖・¥2,800-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:55%
    • 原料米:美山錦
    • 原料米収穫地:湯沢市
    • 日本酒度:+4 / 酸度:1.4 / アミノ酸度:0.8

    戦後から平成なかばに至るまで、当蔵もご多分にもれず「純米」にはあまり力を入れていなかった。長らく普通酒がメインの蔵であったし、その影響で特定名称酒においても、アルコール添加型の本醸造、吟醸、大吟醸が目立つ商品構成であった。

    ところが新体制下からは純米嗜好に塗り替えられることになった。旧来のアルコール添加型の製品は次々に廃止となり、その代わりに「純米吟醸 六號」や「やまユ」をはじめとした純米吟醸シリーズがリリースされた。純米系を蔵の基本に据えて展開して行く流れの中で、秋田県限定のシリーズとして「レトロラベル」という純米のシリーズも新たに展開することになった。なお、グリーンラベルはその「レトロラベル」中もっともグレードの高い純米吟醸酒である。

    なお本銘柄は、のちに精米歩合や価格の改定の折に、さらに深い緑色をまとい、「ヴィリジアンラベル」として再スタートすることになる。

    純米吟醸 グリーンラベル
  • 21BY July.2009 - June.2010
    特別純米 ブラックラベル
    • 価格:¥1,220-/720㎖・¥2,439-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:麹米50%、掛米60%
    • 原料米:吟の清、酒こまち
    • 原料米収穫地:秋田市
    • 日本酒度:+1 / 酸度:1.6 / アミノ酸度:0.9

    「レトロラベル」の中核となる「ブラックラベル」は、当時、地酒卸「日本名門酒会」からリリースしていた特別純米「六號」とほぼ同様の設計で醸造された。具体的には特別純米「六號」と同一のスペックであるものの、やや甘みが多く仕上がったものを秋田県内版として振り分けていた。「ブラックラベル」は、販売的にはさほど好調とは言えなかったが、4年ほどリリースされた。最終的にこれらレトロラベルシリーズは県内限定を外され、全国特約店向けの火入れ酒シリーズである「カラーズ」という現状のラインナップにつながることになる。

    特別純米 ブラックラベル
  • 21BY July.2009 - June.2010
    山廃純米 ホワイトラベル
    • 価格:¥1,140-/720㎖・¥2,280-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:65%
    • 原料米:美山錦
    • 原料米収穫地:秋田市
    • 日本酒度:+7 / 酸度:1.8 / アミノ酸度:1.3

    当蔵の生酛系酒母へのトライは続いており、当シーズンにおいては倍増し4本程度の仕込みとなった。この「山廃純米ホワイトラベル」、「とわずがたり」、「佐藤卯兵衛(山廃版)」である。なかでも、地元県民にこそ生酛系酒母の良さを楽しんでいただきたいと、満を持して秋田県内限定「レトロラベル」の一角として送り込んだ酒が、この「山廃純米ホワイトラベル」であった。

    なお当シーズンの山廃酛の製造は、非常に困難を極めた。たった4本しか醸造していないが、途中で酸が出なかったり、香りが変調して使用できなかったものもあったりと、製造は順風満帆ではなかった。どうも、仕込みを重ねるごとに上達しているわけではなさそうだった。蔵内の菌叢が変動していたのかもしれない。そのような苦労の中で当時理解しはじめていたことは、きちんと造られた山廃酛には、いわゆる「山廃臭さ」———焦げたような臭い、蒸れたような臭い、穀物的な臭い———は一切なく、素晴らしく澄み切った香りがするということである。だが少しでも失敗すると、酒母そのものから不快な臭いが出る。こうした不完全な酒母を使えば、確かに良くない酒ができるのだ。一般的に、生酛系の酒に対して「独特な臭いがある」とか「重い」とか「飲みにくい」とか間違った誤解があるが、これは生酛系酒母のせいではなくて、不完全な酒母を立ててしまった未熟な製造者のほうに責任があるのである。

    より良い山廃を造るために我々は最大限トライしていたが、逆にうまくいかない事例が増えてきていた。また、この秋田限定ホワイトラベルも、ほかのレトロラベルシリーズ同様に販売面ではぱっとしない成績であった。ごく少数の専門店では好評価だったものの、その他の販路ではさっぱりであった。結果的にこの県内限定ホワイトラベルは、2年足らずで終売に追い込まれてしまうのだった。

    山廃純米 ホワイトラベル
  • 21BY July.2009 - June.2010
    六號 純米
    • 価格:¥1,155-/720㎖・¥2,415-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:60%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:湯沢市ほか
    • 日本酒度:+3 / 酸度:1.6 / アミノ酸度:0.9

    地酒卸会社「日本名門酒会」専用の定番商品が「六號(ろくごう)」である。当シーズンは、後述の「六號 しぼりたて」のブレイクもあって、定番「六號」の評価も順調に向上していった。人気の高まりのその理由のひとつには「瓶燗急冷」「冷蔵保管」という二つの高コストな管理体制を敷いたことがあった。当時、秋田県醸造試験場の場長となった田口隆信氏は、以上の2点について県内の酒蔵を熱心に指導していたが、この影響である。

    なお、一昔前の一般的な製法では「タンク貯蔵」「常温保管」と呼ばれる方式が主流である。上槽後、酒は蛇菅やプレートヒーターと呼ばれる熱殺菌装置を通して、60度以上の高温で貯蔵タンクに貯えられる。そして数ヶ月あるいは数年後、出荷直前にタンクから適量取り出され、活性炭などの濾過材を用いて、貯蔵中に発生した劣化物質を取り除き、再び熱酒のまま酒瓶に入れられる。そして、たいていそのまま常温で放置されて出荷となるのだ。

    これに対して「瓶燗急冷」「冷蔵保管」は大変手間がかかる。搾られた酒は、たいていは濾過もせずそのまま瓶に詰められる。そして瓶ごと、熱湯の入った瓶燗槽(プール)で60度以上に湯煎される。殺菌後、冷水で冷やして、そのまま冷蔵庫に入れられ、出荷の時期を待つのである。

    つまり「瓶燗急冷」「冷蔵保管」とは、殺菌回数を一回に抑え、かつ、その前後における熱ならびに酸化ダメージを極限に抑えた理想の酒管理方法といえる。

    しかしこうした工程を行うとなると、人員増強や冷蔵設備は必須である。いまだ巨額の赤字に悩む当蔵であったが、人員を補充し瓶燗槽や冷蔵庫を購入して、この「瓶燗急冷」「冷蔵管理」を徹底することとした。経営状態の悪化は進んでおり確かにコスト削減が必要な時期であった。しかし、コスト削減ばかりしていたら良いものが作れない。では投資をしたからといって、100%良いものができるかといえばそれもわからない。酒造りを継続するために、より多くの経営の悩みが増えてゆく———四方八方からあらゆるプレッシャーにとり囲まれている———当シーズンはそんな時期であった。

    六號 純米
  • 21BY July.2009 - June.2010
    六號 純米しぼりたて
    • 価格:¥1,313-/720㎖・¥2,625-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:60%
    • 原料米:美山錦
    • 原料米収穫地:湯沢市
    • 日本酒度:+2 / 酸度:1.5 / アミノ酸度:0.9

    本作品は、日本名門酒会用定番酒「六號」の限定商品である。

    日本名門酒会は「モノ」でなく「コト」を売るという方針のもとに、地酒の黎明期から、四季折々に季節限定酒を展開する試みを行っていた。「ひやおろし」や「初しぼり」などの今では常識と言えるほど人口に膾炙したスタイルの言葉は、同会が広めたものである。日本酒業界において、同会の普段の努力によって築かれた慣習は少なくないのである。

    当社も定番「六號」の季節バージョンとして、新たに「しぼりたて」ならびに「ひやおろし」を付け加えることとなったが、スピンオフならではの特徴を持たせるため、通常の「六號」よりもさらに軽快さを求めた酒質設計を追求することとした。麹菌に「究」で用いられる「吟味」を用いることなどで透明度を上げる一方、もろみは低温経過で甘みを残すことを念頭においた。また、当時としては斬新な桃色のラベルを採用。結果として本作品は、味わい・見た目ともによく調和し、当季においても稀に見る傑作となった。

    六號 純米しぼりたて
  • 21BY July.2009 - June.2010
    六號 純米なまざけ
    • 価格:¥1,365-/720㎖・¥2,730-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:麹米50%、掛米60%
    • 原料米:酒こまち、吟の精
    • 原料米収穫地:秋田県
    • 日本酒度:-2 / 酸度:1.5 / アミノ酸度:1.0

    このシーズンから「六號」の季節ものシリーズは、心機一転、カラフルにリニューアルして出直すことになった。酒のラベルの色としては珍しいピンクの「しぼりたて」に、茜色の「ひやおろし」。そして名門酒会が特に力を入れる「夏の生酒」企画には、これまた目を引く配色のマスカットグリーンのラベルにて「なまざけ」が投入された。設計としては、生酒であるため貯蔵期間に糖度とアミノ酸が上昇するのを見越して、「しぼりたて」とは逆に甘みをやや抑えた造りとした。結果として本作品は、バランスが取れつつも骨太の味わいとなり、他の「六號」季節ものと比しても遜色のない佳作として評価されることとなった。

    六號 純米なまざけ
  • 21BY July.2009 - June.2010
    六號 純米ひやおろし
    • 価格:¥1,365-/720㎖・¥2,730-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:麹米50%、掛米60%
    • 原料米:酒こまち、吟の精
    • 原料米収穫地:秋田県
    • 日本酒度:+2 / 酸度:1.6 / アミノ酸度:1.0

    今となっては市場でも珍しくない「ひやおろし」であるが、そもそもこの企画も1970年代に名門酒会が復活させた季節提案酒である。もともと「ひやおろし」とは、火入れを行いタンクに貯蔵した酒を、気温が下がり衛生状態が良い秋になってから、瓶に(二度目の殺菌を行わずに)そのまま詰めるものである。しかし現代ではより劣化を抑えた酒が好まれるため、酸化しやすいタンクでの貯蔵を行わないケースが多い。結果として、上槽後に殺菌回数を一回に抑えている酒であれば、「ひやおろし」ということができる。この作品においても、酒が完成したらすみやかに瓶詰め。すみやかに湯煎による瓶燗殺菌。その後は冷蔵庫で半年以上貯蔵したのち、「ひやおろし」として秋にリリースとなっている。しかしそうなると「一体全体、通常の定番酒と何が違うのか?」という話になってしまう。当蔵では、定番の「六號」もすべて同様の管理方法を採用しているからである。苦肉の策として、できるだけシーズンの初めに醸造しておくことで、より貯蔵期間を長く取ること。また、味わいがしっかりした酒をセレクトすることで「ひやおろし」らしさを演出することとした。結果的には「しぼりたて」同様に本作品も評価が高かったものの、これで「ひやおろし」といえるのだろうかという、どこか腑に落ちない気分は残るのであった。

    六號 純米ひやおろし
  • 21BY July.2009 - June.2010
    六號 純米吟醸
    • 価格:¥1,650-/720㎖・¥3,3000-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:17度
    • 精米歩合:55%
    • 原料米:酒造好適米
    • 原料米収穫地:秋田市
    • 日本酒度:+3 / 酸度:1.5 / アミノ酸度:0.9

    前のシーズンから急遽投入された「六號 純米吟醸」である。当シーズン「やまユ」として構想されながらも、残念ながらリリースされなかった「酒こまち」「亀の尾」「美山錦」「美郷錦」のうち、後者の2つ「美山錦」「美郷錦」がこちらに回収されてのリリースとなっている。誤解しないでいただきたいのだが、「やまユ」にはならなかったとはいえこの作品のクオリティが低いというわけではない。「やまユ」の求める基準の第一位は、実験酒たる「やまユ」にふさわしい個性的な味わいなのである。蔵元による利き酒の際に出荷の是非が決定されるが、出来栄えが良くても保守的な味わいであれば見送られることも珍しくはない。この「六號 純米吟醸」について言えばたしかに「やまユ」に求められるようなフックは少ないものの、むしろバランスは良かった。仮に銘柄を隠して利き酒した場合、むしろ酸味勝ちな「やまユ」よりも、一般的な評価としてはこちらのほうが高いであろうと思える出来栄えであった。

    しかし肝心な市場の評価としては、好調とは言えなかった。「六號 特別純米」に人気が集まりつつあった時なので、上位機種であるこちらの作品も注目を浴びるかと思いきや、拍子抜けするほどレスポンスがなく困惑したものである。これは不思議であった。前のシーズンでも「赤やまユ」は爆発的な反応を得たのに、同じ内容の「六號 純米吟醸」はまったく騒がれることがなかった。これは非常に興味深い反応で、後の新政の販売方針にも少なからぬ影響を与える出来事であった。販路の違いが酒の評価に大きく影響するとしたら、いくら良い酒を造っても徒労に終わる可能性があるのだ。

    実際のところ「六號 純米吟醸」はこの翌シーズンであえなく終売となってしまう。こうして「日本名門酒会」における純米吟醸クラスのヒットは、数年後の「No.6」の登場を待つことになる。

    六號 純米吟醸
  • 21BY July.2009 - June.2010
    秋田流 純米酒
    • 価格:¥1,050-/720㎖・¥2,100-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:75%
    • 原料米:酒造好適米
    • 原料米収穫地:秋田県
    • 日本酒度:+6.0 / 酸度:1.6 / アミノ酸度:1.1

    「秋田流」シリーズは、「純米」と「本醸造」の2タイプが存在したのだが、当年度で「秋田流 本醸造」の製造は最後の年となっている。この頃、「新政」は新商品をすべて純米系統(純米仕込の貴醸酒も含む)に揃え、少しづつ成果を出し始めていた。着々と———いやかなりのスピードで純米蔵への道を歩んでいたのではあるが、最後の難関が「普通酒」(パック酒含む)をいかに純米化するかであった。「普通酒」の純米化はコスト的にも技術的にも、かなり難易度が高い。安い米を使っては飲めた酒にはならない。しかし酒米は高価であり、用いる場合はそんなに磨くことができない。少なくても85%くらいの低精米で造らないと、値上げ幅が大きくなりすぎてしまうだろう。日用酒の極みであるパック酒などは10円上がっただけで市場から見捨てられるというような風潮であった。売上の大半を普通酒に頼っていた当蔵にとっては、これはまさに危険極まりない取り組みなのである。しかしながら、やり遂げなくてはならなかった。このまま普通酒に売上を依存していては、売上高の加速的な減少により、赤字が拡大するばかりであった。普通酒を純米化して、純米が好きな方にとっての日用酒の新ジャンルを切り拓き、この分野でも利益を取れるようにしたい。また、なにより純米蔵であることで、蔵の熱意を理解してくれるファンも増えてくれるはずである。加えて手の込みまくった新しい作品群がより力を増してくれれば、売上高はより減少しても、計算上は赤字を脱却できるはずだ———おおまかにこのようなプランで動いていたのである。そして、この全量純米化は早くも3年後の24BYに予定されていた。怖くて先延ばししたいのはやまやまであるが、足を止めてしまっては確実な破滅が待っている。粛々と進めていかねばならない。当シーズンは低精米の造りをとにかくこなして技術を上げること、そして本番の「普通酒純米化」の前に同じアルコール添加酒である「本醸造」クラスを先に片付けておくことが経営上の要請であった。このような経緯で「秋田流本醸造」はこの年が最後の作りとなった。

    秋田流 純米酒
  • 21BY July.2009 - June.2010
    とわずがたり 第二世代
    • 価格:¥1,350-/720㎖・¥2,700-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:60%
    • 原料米:酒造好適米
    • 原料米収穫地:秋田県
    • 日本酒度:3.0 / 酸度:1.8 / アミノ酸度:1.3

    2年目に入った山廃造りの酒である。当年度も、紆余曲折はあったものの無事に酒母はできあがり、酒としても品質的に問題はない出来栄えとなった。とはいえ、初年度からどれだけ技術が進展したかという疑問は残った。手順をただこなしているだけで、山廃酒母とは何か、生酛とはどう違うのか、もし仮にこの手順を変えたらどうなるのか、さっぱりわからずに醸造をしていた。つまり実際のところは綱渡りのような状況であり、単に運よく山廃ができ上がってくれていたのであった。なお当シーズンに仕込んだ山廃は4本。設備と人材の限界でこれしか手掛けることができなかったのだが、この程度の本数では、勘所もつかめないし、そもそもすぐにやり方を忘れてしまうので、また次のシーズンは一から勉強のやり直しとなってしまう。こんな様子では上達は見込めないのではなかろうか———? その予想は当たり、翌季の山廃づくりはついに危機的な状況を招くことになる。

    とわずがたり 第二世代
  • 21BY July.2009 - June.2010
    佐藤卯兵衛 山廃純米大吟醸
    • 価格:¥2,100-/720㎖・¥4,200-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:17度
    • 精米歩合:45%
    • 原料米:麹米/山田錦(兵庫県産)・掛米/酒こまち(秋田県産)
    • 日本酒度:±0 / 酸度:1.7 / アミノ酸度:1.2

    高級酒「佐藤卯兵衛」の山廃版であり、当シーズン含めて2年間のみ販売されたモデルである。「卯兵衛」自体は、秋田県版並びに「日本名門酒会」版の二つが存在したが、こちらの山廃バージョンは主に「日本名門酒会」でのみ販売された。このシーズンの山廃仕込み自体もまだまだ安定性に欠ける出来であったのだが、この「山廃卯兵衛」に用いた山廃酒母は最も良い出来となった。一切オフフレーバーがない山廃であり、したがって出来た酒の質も申し分なく、テイスティングしても速醸酒母と一見差がないのだった。速醸酒母との違いは、軽さのなかに得も言われぬ奥深い余韻が感じられることと、酒の寿命が延びること、つまり酸化しにくく耐久性が飛躍的に上がることである。当時はまだ山廃を含む生酛系酒母には、独特の、しかも清々しいとは言えないような匂いがつきものだと誤解されているところがあった。味わいも、おおよそ濃醇タイプ以外の認識はされていなかったであろう。しかしながら、自分で造ってみると、よく出来た生酛系酒母にはいかなる不快な匂いもないし、味わいも独特のコクが感じられるものの、より研ぎ澄まされた軽快さがそれに同居しうるのである。もし、ある生酛系酒母の酒にオフフレーバーがあるのなら、それは生酛系酒母に起因するものではなく、製法が未熟だからなのである。味が濃いのは、あえてそのように造るからであって、生酛系酒母そのものに起因する性質ではないのである。こうした事実が判然とするにつけ、世間での生酛系酒母への誤解をなんとか晴らしたいという気持ちがふつふつと湧き上がってくるのであった。

    佐藤卯兵衛 山廃純米大吟醸
  • 21BY July.2009 - June.2010
    (きわむ) 第二世代
    • 価格:¥1,500-/720㎖ 完売済
    • アルコール分:15度
    • 精米歩合:55%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:秋田県
    • 日本酒度:+8 / 酸度:1.3 / アミノ酸度:1.0

    前シーズンにリリースした第一世代の「究」は大きな成功を収めたといえる。プロジェクトの指導者でもある秋田県立大学教授・岩野君夫氏は、全国各地で醸造における講義を行っていたために、本企画は醸造業界内においても知られるものとなった。大きな期待を背負っての二度目の醸造となった本作品だが、結果としてはより軽快な酒に仕上がったのではないだろうか。綺麗すぎるほどの酒質であったが、バランスは悪くないため実験酒としては合格点と言える出来であったと言えるだろう。なお、この淡麗な表現は麹菌由来のものである。酒の味わいを決める上で、麹は重要な働きを持っている。この「吟味」という麹菌は、苦味を感じさせるアミノ酸(アルギニン)をあまり生産しないという特徴を持っているが、当シーズンの醸造ではその傾向がたいへん強く出て、実に淡麗辛口な味わいの酒となったのだ。確かにこの「吟味」という麹菌は、まったく新しい味わいをもたらず麹菌であった。業界内では「できる酒に味がなさすぎる」などの不評も少なからずあったようだが、その個性は抜群であり、新発売の麹菌としては、当時異例なほど高い売上を誇ることになる。当蔵でも長く愛用している麹菌である。

    究 第二世代
  • 21BY July.2009 - June.2010
    六號酵母生誕八十周年記念酒
    • 価格:¥1,365-/720㎖・¥2,730-/1800㎖ 完売済
    • アルコール分:16度
    • 精米歩合:45%
    • 原料米:山田錦
    • 原料米収穫地:兵庫県産
    • 日本酒度:±0 / 酸度:1.6 / アミノ酸度:0.9

    1930年に当蔵のもろみから発見された、現在市販最古の優良清酒酵母である「きょうかい6号」。その生誕80年を記念して販売された純米大吟醸酒が、この「六號酵母生誕八十周年記念酒」である。製法は大正時代のレシピを参考にするなど、「やまユ」と通じる思想性に基づいているが、特筆すべきことは原料米に精米歩合45%の「山田錦」を使用していることである。この頃、当蔵としてはすでに県外の米を使用することに疑問を感じており、早期に全量秋田県産米にシフトする努力を始めていた。このため、実質的にこの酒が当蔵にとって最後の「山田錦」であり、また最後の他県産米の使用となった。出来に関しては言うまでもなく、文句のない逸品に仕上がっている。なお発売に際して2010年の冒頭に生酒が販売され、追って年末に火入れが展開されている。

    六號酵母生誕八十周年記念酒
  • 21BY July.2009 - June.2010
    二十一酒造年度
    全國新酒鑑評会 金賞受賞酒
    • 完売済
    • アルコール分:17度
    • 精米歩合:40%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:秋田県
    • 日本酒度:±0 / 酸度:1.5 / アミノ酸度:1.1

    その名の通り、新酒鑑評会の金賞酒であるが、内容は「見えざるピンクのユニコーン」と同内容のジャケット違いである。「見えざるピンクのユニコーン」を始めとする4つの出品バトル酒は、「やまユ」を扱う少数の特約店を対象としてリリースしたが、この金賞バージョンは「日本名門酒会」並びに地元・秋田県の取扱店にて販売された。当初こちらのバージョンの発売予定はなかったものの、「秋田県産米」「純米」「6号酵母」という厳しい条件での金賞受賞を記念した酒が欲しいという(主に地元の)要望でリリースが決定。おかげで地元のみの素材での快挙を、故郷にもよく知らしめることになった。

    二十一酒造年度 全國新酒鑑評会 金賞受賞酒
  • 21BY July.2009 - June.2010
    見えざるピンクのユニコーン 第一世代
    Invisible Pink Unicorn
    • 価格:¥2,800-/720mℓ 完売済
    • アルコール分:17度
    • 精米歩合:40%
    • 原料米:酒こまち
    • 原料米収穫地:秋田市
    • 日本酒度:±0 / 酸度:1.5 / アミノ酸度:1.1

    当シーズンより2年間、当蔵は醸造に携わる社員を2人ずつのチームに分け、それぞれ公的コンテストに出品する酒を醸し、その出来を競うという珍しい取り組み———「出品バトル」という社内企画を開始した。公的コンテストとは、具体的には春の「全国新酒鑑評会」や、秋の「秋田県清酒品評会」また「東北清酒鑑評会」のことである。

    その中のひとつ「見えざるピンクのユニコーン」(Invisible Pink Unicorn)は、当時専務であった蔵元・佐藤祐輔氏がリーダーとなり、秋田県の酒米である「酒こまち」を全量使用し、かつ純米酒で仕込んだものである。なお、この「出品バトル」企画では、どのチームにも純米で戦うことをルールとして課していた。当時、純米酒で新酒鑑評会に出品する蔵は、非常に稀なものであった(2016年現在でも純米の新酒鑑評会への出品は1割にすぎない)。

    結果としては、本作品は最高位である金賞を受賞することになった。酒こまち100%を使用しての、しかも純米酒での金賞受賞は秋田県でも前例はなかった。我々は改めて、自らの造りにおいて、醸造用アルコールはもちろん、山田錦などの一般的評価が高い県外の酒米にしろ、必ずしも必要ではないことを再確認することができた(こうして翌年の平成22醸造年度より、原料米を全量、秋田県産米に限定することにしたのであった)。

    なお当蔵はこのシーズンより「6号酵母」のみ使用して醸造することにしていたが、この「バトル出品酒」企画においては通常の「6号酵母」だけではなく、その変異株の使用も認めていた。これら酵母は、通常の「6号酵母」とは違い、リンゴ様の香気成分(カプロン酸エチル)を大量に産生する。いわゆる業界用語で「香り系酵母」とか「セルレニン耐性株」という酵母である。

    結果として、このような公的コンテストや、後述の「究」のような産学協同開発酒に限って、「6号」の変異株の使用を許す状況は3年ほど続いたが、最終的に24BY(2012-2013)からは、より伝統的な姿に回帰するため、一切の変異株の使用を取りやめて、醸造協会が頒布する「きょうかい6号」のみに統一となった。

    見えざるピンクのユニコーン 第一世代 Invisible Pink Unicorn
  • 21BY July.2009 - June.2010
    ネフェルティティ Nefertiti
    • 価格:¥2,800-/720㎖ 完売済
    • アルコール分:17度
    • 精米歩合:麹米35%(山田錦)、掛米40%(美郷錦)
    • 原料米:山田錦20%使用、美郷錦80%使用
    • 日本酒度:-1 / 酸度:1.7 / アミノ酸度:1.2

    本作品も「出品バトル酒」のひとつであり、当時の上槽担当者である森川英貴氏の手になる酒である。麹米、掛米ともに、秋田県で生まれた酒造好適米「美郷錦」を用いている。「美郷錦」は、「美山錦」と「山田錦」の掛け合わせである。うまく醸造が運べば、「美山錦」の清潔な輪郭と爽やかさに、「山田錦」の深みが加わった良酒ができるのである。使用酵母は「6号酵母」の高香気発生型変異株である「六號改」(ろくごうかい)。コンテストでは好まれるリンゴ様の香り(カプロン酸エチル)を非常に高く産生する酵母である。他の出品酒同様に、とうてい普段飲みの酒とはかけはなれた華やかな香りが主体ではある。しかし、この酒については、より自然でオーソドックスな吟醸香である酢酸イソアミル(バナナ様香)も併せ持つ上、やや香辛料的な香りも入り混じっていた。味わいについても濃厚であり、この「ネフェルティティ」は、他の出品バトル酒と比較しても、複雑な香味の作品となった。なお、上立ち香に混じるスパイシーな香りから想起されたのが、エジプトの女王「ネフェルティティ」であり、これを酒銘とすることとなった。

    ネフェルティティ Nefertiti
  • 21BY July.2009 - June.2010
    梨花 Rinka
    • 価格:¥2,800-/720mℓ 完売済
    • アルコール分:17度
    • 精米歩合:麹米35%、掛米40%
    • 原料米:山田錦20%使用、雄町80%使用
    • 日本酒度:+1 / 酸度:1.6 / アミノ酸度:0.8

    「出品バトル酒」のひとつであって、当時の製造部長(杜氏)である鈴木隆氏の手になる酒である。鈴木氏は当蔵叩き上げの社員であるが、19BY(2007-2008)に当蔵の製造部長に抜擢されることになった。19BYに醸したコンテスト用の大吟醸は、三冠に輝くなど華々しい成績を残したが、新体制になった直後の20BY(2008-2009)は米が溶けずに苦戦し、新酒鑑評会は落選に終わっていた。純米での出品という高いハードルを設定し、リベンジを目論んだ当シーズンであるが、麹米に「山田錦」、掛米に「雄町」を選択。その鉄壁の組み合わせから、本作品は、これが全国新酒鑑評会の「大本命」になるはずであった。ところが、酸味豊かで、搾りたてはやや荒かったため、春の新酒鑑評会への出品については「見えざるピンクのユニコーン」に道を譲ることになる。とはいえ、味わいは尻上がりに向上し、秋の「秋田県清酒品評会」、「東北清酒鑑評会」においてどちらも入賞し、二冠を果たした。味わいのトータルバランスでは同年の「バトル酒」で最高峰と言われた名作であった。

    梨花 Rinka
  • 21BY July.2009 - June.2010
    オクトパスガーデン 第一世代 Octopus Garden
    • 価格:¥2,800-/720㎖-完売済
    • アルコール分:17度
    • 精米歩合:麹米35%、掛米40%
    • 原料米:山田錦18%使用、酒こまち40%使用
    • 日本酒度:±0 / 酸度:1.5 / アミノ酸度:0.9

    「出品バトル酒」のひとつであり、後に杜氏となる古関弘氏が醸した作品。古関氏は、富山の「三笑楽」にて長らく修行を詰み、秋田の「福乃の友」にて杜氏を2年間勤めたあと当シーズンの開始直前に当蔵に入社。当時は能登流の造りをベースにした作り手であったが、持ち前の柔軟な姿勢や、強い好奇心が買われて「出品バトル酒」のチームリーダーに抜擢された。本作品は、麹に「山田錦」、掛米に「酒こまち」を用いたものであり、新酒時点での評価は「見えざるピンクのユニコーン」と同等格であり、「酒こまち」らしい軽やかさが光る佳酒であった。

    オクトパスガーデン 第一世代 Octopus Garden
  • 21BY July.2009 - June.2010
    ダークサイド・オブ・ザ・ムーン 第一世代
    • 価格:¥2,000-/720㎖ 完売済
    • アルコール分:17度
    • 精米歩合:40%
    • 原料米:山田錦18%使用、雄町15%使用、美郷錦25%使用、酒こまち42%使用
    • 日本酒度:±0 / 酸度:1.5 / アミノ酸度:1.0

    これは「出品バトル酒」の荒走りと責め———つまり、搾りの最初と最後の部分をまとめた酒であり、かつ火入れをしない生酒としてリリースされたものである。「出品バトル酒」は、価格的に高価であったので、もう少しお手ごろにこの企画を楽しんでいただけないかと急遽発案したものであった。確かに商品価値の低い部分の混ぜ合わせではあるが、そもそも元の酒の精米歩合も低く、醸造も丁寧であるので、香味に問題はなく、むしろ好まれるかたが多かったのが印象的であった。

    ダークサイド・オブ・ザ・ムーン 第一世代
  • 20BY July.2008 - June.2009
    素晴らしき酒米の世界
    • 月々価格:¥2,600- (720ml 2本入×3ヶ月) 完売済

    当季のこの頒布会より、すべての酒がこの頒布会のためだけに特別に仕込まれることになり、一転、入魂の企画と変化した。当シーズンは、きたるべき全量秋田県産米による純米化に向けて、「秋田県産の酒米の味わいを飲み比べてもらう」という企画となった。

    使用原料米は順に、1、湯沢産「美山錦」 2、秋田市河辺産「改良信交」 3、湯沢産「亀の尾」 4、秋田市雄和産「酒こまち」 5、秋田市河辺産「秋の精」 6、大潟村産「美郷錦」 という構成である。多様な味わいの酒が揃い踏みすることとなったが、全ラインナップ中もっとも人気を集めたのは、造り手の予想に反して「亀の尾」であった。

    なお当シーズンにおける当蔵のメインの原料米調達地は、秋田県南部の穀倉地帯である湯沢地区だった。湯沢は、広大な平野が広がる穀倉地帯であり、秋田県醸造界の総意として、大正時代に遡る頃から酒造用米の育成を奨励されてきた地区である。しかし、当蔵はより高品質な酒米を求めるため、地元の秋田市にて、いわゆる契約栽培の取り組みを推進させてもいた。河辺地区の篤農家集団である「河辺酒米研究会」とタッグを組み、主力酒米「酒こまち」以外にも「改良信交」や「美郷錦」といった希少米の栽培を委託し始めていた。この頒布会の半分はそうした契約栽培によるめずらしい酒米で占められている。

    素晴らしき酒米の世界
    素晴らしき酒米の世界
    素晴らしき酒米の世界